SPEECH AT BEPPUWAN

別府湾会議でのスピーチ原稿

以下の文章は、平成9年11月11日から13日まで、大分県別府にて開催された
ハイパーネットワーク97別府湾会議(*)」のスピーカーとしてお招きいただいた由利ママが「アンチョコ」として作成したものです。
会議に出席できなかった女性のネットワーカーの皆様に読んでいただければと思い、
会議の主催者側に許可をいただいて、ここに公開させていただきます。
なお、実際の会議では時間の関係で省略した部分や、表現などが異なる部分もありますのでご了承ください。


Windows仕事情報落書帳 日記リンクDATAPATIO

はじめに

こんにちは。田澤と申します。ただ今ご紹介いただきましたように、私は「フリーライター」なる肩書きをかかげさせていただいてはおりますが、その実態は北海道の北見に住む子育て真っ最中の主婦です。そう、どこにでもいる、「主婦」です。
しかし、おそらく「主婦」は、星の数ほどある職業のなか、もっとも多く、もっとも人々の生活や地域に密着した職業ではないでしょうか(主婦が職業であるかどうかという議論は別として)。そういう意味で、地域におけるコンピュータやネットワークの普及を考えるにあたり、「主婦」や「女性」は無視できない存在であると、私は考えています。
ここまでの会議では、「行政」「メーカー」「通信会社」がどのようにしてネットワークインフラを作っていくかという、いわば上からの大きな動きについての論議がなされてきました。これに対して、ここでは少し視点を変え、「ネットワーク」の恩恵を受けている個人から、つまり下からの動きの1例として、私自身がネットワークにどうかかわっているか、また、パソコンやネットワークについてどんな考え方をしているかをお話したいと思います。

なぜネットワークが必要になったか

私は今、パソコンやネットワークが無くてはならない生活をしております。これらを抜きにして、私の今の生活は語れません。世の中には、ネットワーク抜きで生活している主婦は五万といるでしょう。それなのにどうして私には、欠かせない存在になったのでしょうか? この疑問が、「ネットワークが主婦の生活をどのように変えるか」という答えを導き出すヒントになると考え、まずは、私のプロフィールからお話しさせていただきたいと思います。
私は、ふつうに大学を卒業して、ふつうに地元の電気メーカー「シャープ」に就職しました。それなりに責任ある仕事をさせていただき、5年ぐらい過ぎた頃、「結婚、出産、育児」という目前の壁に対しいかにして仕事を続けるか、という問題にぶつかりました。これは、ここにいらっしゃるコアラに参加していらっしゃる女性も含めて、あらゆる女性がいつかはぶつかる壁だと思います。そして、それぞれが悩み、結婚を機に家庭に入る人、育児休暇をとる人、仕事をとる人、それぞれの道を選択します。
私の場合、幸いシャープは育児制度や再就職制度が整っており、最初はその道を歩むことになると思っていました。しかし、現実は甘くありません。結婚したいと思った男性が生命保険会社に勤めていたのです。ご存知かと思いますが、生命保険会社は、社員を2、3年おきに転勤させます。そうなると、それについていく奥さんは「自分の仕事を持つ」ことはとても困難です。
でも、私はワガママでした。好きな人と結婚をしたい、子育てもしたい、やりがいのある仕事もしたい。そこで、全部望みをかなえる道を探すことにたのです。
そのとき思ったことは「やる気さえあれば、地方にいこうが、仕事はできる。万一そこに希望する仕事が無ければ、そこでできる仕事を作ればいいんだ」ということでした。
今から6年前、長女の出産と主人の転勤を機に、シャープを退職しました。そして考えました。どこに転勤しても、子供を育てていてもできる仕事…そうだ「ライター」になろう。自分でいうのもなんですが、私は基本的に「楽天家」なんですね。
しかし、どうやって仕事をとるのか。会社というバックもなく、経験もなく、地方を転々とする単なる主婦です。しかも、当時はお腹が大きく、産まれれば仕事ができるかどうかわかりません。まさに「働く」にふさわしくない条件のオンパレードでした。
でも、なせばなる。パソコン雑誌の編集部への積極的なアプローチの末、「主婦であることを」武器にした記事を提案し、ついに連載の仕事を手に入れたんです。ちなみに、この「連載決定」の電話を受けたは、切迫早産で入院中の産婦人科のベットの上でした。

仕事とのかかわり

そして、私のライター人生が始まりました。この6年の間、我が家は、仙台、大阪、岡山、愛知と移り住み、そしてつい最近北海道の北見へと引っ越しました。また、その間、次女、三女を出産しました。
でも、そんな状況でも、私は仕事を中断したことはありません。私の仕事は、電子メールで記事や本の内容を編集部と打ち合わせ、パソコンで原稿を書き、メールで入稿する、というのが主な流れだからです。また、同じような境遇の主婦仲間と、チームを組み、ネット上で打ち合わせをしながら、翻訳や調査、Webメンテなどの仕事をすることもあります。いずれにしても、通信ネットワークがあれば、どこにいても支障無く仕事を続けることができます。そして、通信ネットワークを抜きにして、私の仕事は成り立たないのです。

生活とのかかわり

一方、生活面でも、さまざまなシーンでパソコンや通信ネットワークを活用しています。技術評論社の「パソコン倶楽部」という月刊誌で「おうちで楽しむWindows」という連載を書いているのですか、リニューアル前をあわせるとももう3年近く、30話以上になりますが、ここに書かれている内容はフィクションではありません。主婦という私の生活の中で、パソコンを活用する様子をそのままレポートしているだけなのです。子供の情操教育から、年賀状作りからオリジナルTシャツ作り、ホームカラオケからオンラインバンキングまて、パソコンは確実に私たちの生活に入ってきているのです
1ヶ月前、我が家が引っ越した北海道の北見は、10万人都市とはいえ、大分よりもずっとずっと田舎です。ロイヤルホストもベスト電気もありません。あのマクドナルドもないんです。冬はマイナス20度まで下がり、小学校のグランドがアイススケート場になり、庭でダイヤモンドダストが見られるそうです。そんな場所だからこそ、道具としてのパソコンや通信ネットワークの「必要性」がより生きてくるのではないかと思います。このあたりは、実際に生活しながら、これからいろいろと発見をしていきたいと思っています。

人とのかかわり

そして、通信ネットワークが私に与えてくれた最も大切にものは、人と人とのつながりです。ネットワークを通じて知り合った人は本当に数え切れません。また、ネットワーク上で懐かしい仲間と再会することもあります。
また、私が書いた記事や本、個人的なホームページを中心に、同様の環境にある主婦の方々がたくさん集まってきてくれています。そこには、ネットワークと出会えた喜びがあふれています。そして、人が集まることにより1つのコミュニティができ、さまざまなノウハウや情報が蓄積されていきます

通信ネットワークとは

人が社会の中で生活する中に、いろいろな欲求があります。「仕事をして社会に貢献したい」「自分の生活を豊かにしたい」「いろんな人と交流したい」私は、通信ネットワークは、こういった欲求をかなえてくれる1つの「道具」だと思っています。ただし、その道具の必要性は、人によってさまざまです。
一般的に男性の場合、現実の社会の中で、これらの3つの欲求を満たしやすい生活をしています。会社に通い、さまざまな人と交流し、趣味や教養を広げる…。そういう生活の中では、多くの男性にとってパソコンやネットワークは、「仕事に必要な道具」という存在に過ぎないのではないでしょうか。
一方、女性は、結婚や子育て、老人介護などさまざまな理由により、これら3つの要求を「現実の社会」の中で手に入れにくい状況にあります。多くの女性は、それをしかたなく受け止め「慢性欲求不満状態」になっているような気がします。それが、パソコンや通信ネットワークという道具によって、仕事や趣味の情報、同じ仲間を得ることができるとしたらどうでしょう。私のときのように「無くてはならない存在」になるのではないでしょうか。
このような経験から、私は、パソコンや通信ネットワークは、女性や老人、障害のある人など、何らかの理由で「仕事ができない」「趣味を広げることができない」「人と交流する機会がない」弱者にこそ、もっとも意味のあり、「生活に必要な道具」となりえると考えています。
しかし、彼らにとって「生活に必要な道具」であるにもかかわらず、パソコンや通信ネットワークを普及させようという世の中の方向性は、「仕事の道具」として使う人たちばかりに向けられているような気がしてなりません。
そしてその結果、日本には、その便利さ、必要性を知らずに、パソコンやネットワークと離れて暮らしている人たちが多いように思うのです。

これから何をしようとしているのか

今、私は、自分がパソコンやネットワークから与えられた素晴らしいものを、同じ境遇にいる、より多くの人に広めたいと思っています。えらそうな表現ですが、それが私のライフワークだと思っています。
その一環として、今年のはじめに、拙書「主婦だってパソコンできる!」という本を出しました。嬉しいことに、この本を読んでパソコンを始めたとメールをくださる方がたくさんいらっしゃいます。でも、これだけでは、まだだめなんです。本は「読もう」と思わなくてはいけません。パソコンに興味を持っていない人たち、この本を手にもしない人たちに、その便利さ楽しさを伝えないと意味がないのです。
それには、TVコマーシャルや一般雑誌での広告が効果的です。しかし、私個人にはそんな「資金源」はありません。そこで、ここにいらっしゃるような行政の皆様の「国民や市民の生活を便利にしたい」、企業の皆様の「商品を売りたい」「通信を普及させたい」という、目的と一緒に動けたら…と考え始めました。
これについては、私なりに少しずつ動き始めています。今、「家庭市場を広げたいので、アプローチ方法を模索中」というパソコンメーカーさんに、私が持つ主婦の電子コミュニティから吸い上げたノウハウやコンテンツを製品に組み込むという企画を持ちこんでいます。これが実現すれば、その存在を知らないがために、パソコンやネットワークの恩恵を受けていない大多数の女性に、何かを伝えることができるかもしれません。
非常に、だいそれたことですが、ネットワークから生まれた小さなコミュニティの力、そこに集まるユーザによる情報がどこまで世の中を動かせるに挑戦したいと思っています。
また、その一方で、地道な活動して、現地での公演や講習会に積極的に取り組んでいきたいとも思っています。…などと言うと、赤ちゃんがいる大変なときに、北海道から出て行かなくても、とか、一般的なメディアで名前が売れてるわけでもないのに…とご心配をいただくことがあります。
でも、今だからこそ、このような活動をしたいと思っています。私は今、「5歳、2歳、6ヶ月の子供が3人もいて」「旦那の転勤で北海道の北見に引っ越したはがり」と、一般の主婦の皆様からみれば同情していただく立場にあります。しかし、東京でバリバリ活躍している雲の上の女性が「コンピュータは情報収集に便利ですよ」と話をするよりも、「子供の保育園のお道具の名前書きを楽するために、パソコンで写真入り名前シールをつくってるんです。」とか「赤ちゃんつれて雪の中銀行に行くは大変なんで、パソコンで振込をするんですよ」といった話のほうが現実味があり、親しみやすい話ができると思うのです
ということで、今、ここに私が話しさせていただく機会を得たことは、私のライフワークにとって、非常にありがたいチャンスだと思っています。自治体、地域コミュニティに関する皆様、市町村で女性向けイベントや講演会、講習会などを、企画をされることがありましたら、「パッチワーク」や「お茶」「ガーデニング」と同列で、「パソコン」を扱ってください。そして、できれば今回のように、寒さの厳しい北見から私を連れ出してくださると嬉しいです。日本国中、喜んではせ参じたいと思います。
ただし、あたたかい地方、特に、四国や沖縄からのお誘いはよりいっそう嬉しいということを付け加えさせていただいて、私の話を終わらせていただきたいと思います。長い時間、ありがとうございました。

TOP OF PAGE


yuri@yuri.com